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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)10881号 判決 1967年7月26日

原告 大兼鋼機株式会社

右代表者代表取締役 小林孝

右訴訟代理人弁護士 小川利明

被告 田尻紀子

右訴訟代理人弁護士 渋谷幹雄

右訴訟復代理人弁護士 原山恵子

主文

被告は原告に対して、原告が別紙目録記載の建物について、東京法務局北出張所昭和三十九年八月六日受付第二四六五五号所有権移転請求権仮登記に基く本登記の申請をすることを承諾せよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

(一)、本件建物について、原告のために本件仮登記がなされていることは当事者間に争いがない。

(二)、≪証拠省略≫を合わせて考えると、前記の原告主張の請求原因事実の(一)ないし(三)の事実を認めることができる。前掲≪証拠省略≫には、石川の原告に対する八百九十万円の準消費貸借債務の弁済期の約定は形式的なものに過ぎないので、約定弁済期を経過してはいるが、本件建物はなお同人の所有に属している旨の石川の証言の記載があり、また証人石川の証言のうちにも同趣旨の証言があるが、これらは、≪証拠省略≫に照らして考えると、石川の主観的希望を述べたものに過ぎないと認められるので、前記認定を覆すに足りず、他に前記認定を妨げるに足りる証拠はない。

(三)、そこで、被告の抗弁について判断する。

(1)、被告は、原告と石川間の本件建物についての代物弁済の予約は、暴利行為であるから無効であると主張するが、前記認定のとおり、原告と石川間の本件建物についての代物弁済の予約は、本件建物を原告の石川に対する元本額八百九十万円の債権の代物弁済に充てることを約したものであり、当時本件建物が右債権額の数倍の価格を有していたということを認めるに足りる証拠はなく、却って、前掲≪証拠省略≫によると、本件建物は、石川が昭和三十九年四月に代金千万円で買受けたものであることが認められることからすると、原告と石川間に本件建物についての代物弁済予約がなされた昭和三十九年八月五日当時の本件建物の価格も、右売買代金額と大差なかったものと推認されるのであり、右の程度の価格の本件建物を、元本額八百九十万円の債権の代物弁済に充てることをもって、公序良俗に反する暴利行為であるとは到底いえないから、被告の前記主張は採用できない。

(2)、被告は、原告と石川間の本件建物についての代物弁済の予約、および原告がなした右予約完結の意思表示は、石川の他の債権者の債権行使を免れる目的でなされた通謀虚偽表示であるから無効であると主張するが、右主張事実を認むべき証拠は何もないから、被告の主張も採用できない。

してみると、本件建物は、昭和四十年二月十六日、代物弁済に因り原告の所有となったということができる。

(四)、本件建物について、被告のために前記の原告主張の請求原因事実の(五)記載の各登記がなされていることは当事者間に争いがない。したがって、被告は本件仮登記に基く本登記をするについて、登記上利害関係を有する第三者に当る。

(五)、前記認定のとおり、原告と石川との間に本件建物の代物弁済の予約が結ばれたにかかわらず、本件仮登記は、その登記原因としては売買予約と表示されているのであるが、代物弁済の予約も売買予約もともに本件建物所有権を原告に移転させる原因となる点において変わりがない以上、本件仮登記は有効であると解すべきであるから、原告は前記認定の代物弁済の予約の完結に因る本件建物所有権取得の対抗力について本件仮登記による順位保全の効力を第三者に対して主張しうるものというべきである。被告は、原告の本件建物所有権取得の原因が売買ではなく代物弁済である以上、原告は売買を原因とする本登記をなすことを登記義務者に求めることはできず、したがって、被告も、売買を原因とする本登記をすることに承諾を与える義務はないと主張するが、不動産登記法第百五条第一項によって準用される同法第百四十六条第一項にいう利害関係人の承諾義務の存否は、仮登記に基いてなされる本登記の登記権利者の権利と利害関係人の登記された権利の優劣にのみ関するものであり、本登記される権利変動の原因として登記上表示される事実の真否とは関係がないものと解すべきである(登記の効力が、登記上登記原因として表示されている事実と、実際の登記原因が異るということによっては左右されないということと、登記権利者が登記義務者に対して、実際の登記原因と異る事実を登記上の原因とする登記申請を強制的に求め得るか否かとは別個の問題であるということは、被告の主張するとおりであるが、原告が被告に対して求めているのは、実際の登記原因と異る事実を登記上の原因とする本登記の申請ではなく、本件仮登記に基く本登記をすることについての承諾であるから、右の点は、原告の被告に対する本件請求の当否とは直接関係はない。)。

以上のとおりであるから、本件仮登記に基く本登記をなすについて、本件仮登記より後順位である前記原告主張請求原因事実(五)記載の各登記の登記権利者である被告の承諾を求める原告の請求は理由があるので、これを認容することとし、訴訟費用の負担については同法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 寺井忠)

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